濱菊_瀬山

建物を設計しながら考えたことなど
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「風景の解像力展」感想 その1

少し前の事になるが、inax銀座で開かれていた「風景の解像力展」に行ってきた。そのなかでも特に印象に残った作品について感想を書いておきたいと思う。


この展覧会は、ja70号との連動企画ということであり、また同時に開催される若手建築家によるシンポジウムに合わせて行われたものであるので、いわばそのシンポジウムのための解説用展示といった意味合いが強かったように見受けられた(実際、展示はギャラリーではなく特設スペースで行われており、その告知も、独立した展覧会としてはなされていなかった)。私はそのシンポジウム自体は観覧することが出来なかったのだが、いくつかの作品は単にシンポジウムの添え物という枠を超えて充分に面白いものであった。

特に目を引いたのが、中山英之による展示である。展示物は、この建築家自身によって設計されたキャンバスが壁に立てかけられ、そこにドローイングか描かれているというものである。この単純きわまりない展示「方法」に、端的に中山による建築の作法が十二分に発揮されているように思えた。

中山の作品について、一般的に語られている言葉と言えば、なんというかドローイングの「印象」(フェミニンがどうの)とか「内容」(ずれた断面がどうの、消失点がどうの)とか、についてばかりで、それを成立させている仕組みについてはほとんど語られていないように思われる。今回の展覧会についても、中山はドローイングのみを展示していた…というような印象を持った人が多いようだが、そのような印象は端的に間違っているだろう。
なぜなら、そこにはそのドローイングを成立させるためのキャンバスが、その作者自身によって「設計」されており、またそれこそが他ならない作品(=「建築物」と呼んでも良いと思われるもの)として展示されていたのだから。(おそらく、中山がドローイングのみを展示しようとするならば、ドローイングは紙に描かれた上で壁に貼られるか、もしくは、直接壁に描かれることになるだろう。)

中山の手によって設計されたキャンバスは、壁に立てかけて置かれる事により、何よりもそこが、床という水平な面と、壁という垂直な面の交わる場所であるという事実を指し示す。またそれは同時に、そのキャンバスが置かれている床と壁が交わる事によって一本の線が生じているという事も気づかせるだろう。すなわち、中山がキャンバスに一本の線を引くということと、そのキャンバス自体を壁に立てかけるということが、ほとんど同じ手つきの中で行われている。また、エッジに向かってテーパーがかけられていたキャンバス自体の形も重要だ。キャンバス同士が重なり合って互いに影を落とすことで、そこに「奥行き」が生まれ、それは、そこにあるものが単なるドローイングではなく「立体物」として製作されていることを意識させるような効果を持つことになるだろう。事実、このドローイングの「隙間」を覗き込んでいる鑑賞者を会場で何人も見かけた。だからおそらく、この展示はキャンバスに何も描かれておらず、真っ白なままであっても十分に成立したと思われる。

確かに中山の描くドローイングは、「フェミニン」な印象を与えるかもしれないし、そこからある種の「作家性」を見て取る事も出来なくはないだろう。しかし、そのような印象は中山が「あえて」意図的に行っているものである可能性が高いと思われ(例えば、次回作のドローイングを中山が「宮下あきら」のようなタッチで発表したとしたら?そのような可能性は否定できない。ないだろうけど。)、だとするならそのような「印象」に拘泥する事はこの作家の持つ可能性の多くを見過ごす事にならないだろうか。

言ってみれば、そこにあるのは立てかけられたキャンバスだけであり、そのキャンバスのデザインのされ方は、誰にでも応用可能なルールとして、きわめてオープンソースなものとして示されているのである。果たして単なるキャンバスが壁に立てかけられている風景を目にしたときでも、人はそこから「フェミニン」な印象を受けるだろうか?


またこのような展示方法は、この展覧会において作品を展示していた他の多くの作家とは一線を画すものであるだろう。一般的に、建物の模型をテーブルの上に並べるといった展示方法は、建物の内容を説明するという意味においては、必要にして十分なものであるのかもしれないが、しかし、建築が成立する方法をそのもの自体で示すという意味においては、あまり役に立たないものであると思われるからだ。
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